ワタの栽培
ワタを育てて、ワタを活かして

1 どうしてワタの栽培活動なのか
  
1つは、子どもたちも「実物を見たり、触ったり」したことがあまりなかった。
   2つには、環境教育として捉えてみた。
2 栽培活動を通して
  @4月の下旬、子どもたちに「ワタの絵本」を読ませた。
  A土の準備を進めながら、タネまきを行った。
  B学年農園の栽培では、子どもたちが、業間の休みに水やりに取り組んだ。
  C本葉が伸びると10cmを越える高さになる。ここでワタの栽培の失敗がよくある。
  D梅雨どきを迎えた。子どもたちの作業の水やりのできない日が多くなった。
  E梅雨が明けた。根がしっかり張っているワタはどんどん大きくなっていった。
  F梅雨を乗り切ると次の難関は、台風である。
3 収穫の喜び
4 ワタを使って
  @ワタくり
  A糸つむぎ
  B作品作り
 まとめ


1 どうしてワタの栽培活動なのか

 総合的な学習、生活科で栽培活動が積極的に取り入れられている。本校でも開校時から栽培活動は盛んで、さつまいもをはじめ野菜や稲作に取り組んでいる。そしてさらに発達段階にふさわしい栽培活動はないものか検討を続けている。
 私自身2年間続けて、2年生の担任になり子どもたちが「へぇー!」「そうだったのか!」と驚きの声をあげながら、そして「子どもたちなりの納得」のいく教材はないものかと考えてきた。そこで取り上げたのがワタであった。「ワタ」を題材に選んだのは次の2つの理由からである。
 1つは、綿花の存在はよく知られているが子どもたちも「実物を見たり、触ったり」したことがあまりなかったことである。2年生の子どもたちに綿花を見せて、「これはどうやってできるのかな?」と尋ねてみると何人かが「機械でできる」と答え、綿花を合成繊維のように考えていることがわかった。綿花という身近な素材を詳しく知らせたいというのが1つ目の理由である。
 2つには環境教育として捉えてみた。私たちは日常的に多くの綿製品を使っている。例えばジーパン、スポーツシャツなどである。ワタの学習を通して毎日身につけているこうした製品は「ワタ」が姿を変えたものだと知ることができる。そして栽培活動の苦労を知った子どもたちに「製品を大切に使おう」とする心や、着古したものを「リサイクルしよう」とする工夫が育っていくことを願った。


2 栽培活動を通して


 
 4月の下旬、子どもたちに「ワタの絵本」を読ませた。子どもたちは口々に「ワタの実を見てみたい」「ワタで糸を作りたい」「小さなタネから大きな枝ができてる、不思議だ」と感想を述べた。低学年では教材への興味づけがどれだけ高まるのかが、学習を進める上で大切なポイントである。ワタヘの興味は子どもたちの中に高く感じられた。
 次に栽培する農園の土作りを行った。ワタは乾燥した土や塩分を含んだ土でも十分育つとされているが、土の耕しの手間を省く訳にはいかない。また、子どもたちにとっても「自分たちで土地を耕す」経験は、環境教育の上からも外すことのできない学習活動の1つである。
 作業は鍬やスコップを手に、汗を流しながらの楽しいものになった。子どもたちが学習内容や感想を記す“振り返りカード”にも「土に、肥えた土とやせた土があるのを知りました。」「石灰をまぶすと土が変わるってふしぎです。」「鶏の糞が土のえいようになるなんてはじめて知りました。」など『驚き』が多く記されていた。作物は栄養を水と土の養分からとる訳で、そのために毎日の水やり(土が乾かない程度に)と土を「やせた」ものから「肥えた」ものにする必要があることが子どもたちなりに理解できた。
 
 こうして土の準備を進めながら、タネまきを行った。農園に直まきしてもいいのだが双葉や本葉の観察をしっかりさせるために、トレイに綿花を敷いて水栽培で発芽させた。芽が出てから教室のプランターに植えた。そしてプランターから観察用のワタを取り出して、子どもたちに土の中に絡まるようにして髭が伸びていることを観察させた。やがて根が伸びてくると学年農園に植え替えをした。


B

 学年農園の栽培では、子どもたちが、業間の休みに水やりに取り組んだ。子どもたちは農園の「お世話」が大好きである。しかしワタは本来、熱帯地域の作物で「水のやり過ぎ」には注意が必要である。「ヤル気」のあまり、1年生で育てた「アサガオ」や「チューリップ」と同じようにたっぷりと水を与えようとする子が多かった。ここで水やりの量の加減を注意するだけでなく、植物の育つ環境の違いを「ワタの絵本」を通して学習した。
 今回の生活科指導要領の「改訂の趣旨」にも「自然とのかかわりの中で気づきを大切にさせる」ことを挙げ、「教師の特定の知識を与えることだけに終わらない」生活科をめざすとある。子どもたちは植物には水が必要であるが、その水の量に違いがあることを、ワタが砂漠や火山の地域で育つことから納得できたようである。それからは、水やりの前後に栽培園の地面を触って「湿り具合」を確かめるようになった。


C

 さらに、本葉が伸びると10cmを越える高さになる。ここでワタの栽培の失敗がよくある。この時期1カ月から1カ月半ほど殆ど成長が見られないのである。そこで焦って水を多い目にやったり、 追肥してしまう。すると根ぐされしてしまうという。
 子どもたちに「大丈夫だよ。いま土の中で大きくなる準備をしているんだよ」と説明した。だが「百聞は一見に如かず」で写真や絵本で土の中に根を張っているワタを観察させた。子どもたちも納得したようで振り返りカードにも「大きくならないから心配だったけど、土の中であんなに頑張っているなんて知らなかった。」、「根を張らないとこれから大きくなっていくのに困ってしまう、たくさん根を張ってほしい。」、「根を張るときは土の上の葉っぱが伸びないのは大きくなるための順番で仕方がない、安心した。」といった内容が書かれていた。


D

  そして梅雨どきを迎えた。子どもたちの作業の水やりのできない日が多くなった。それでも毎日ワタの観察に農園へ足を向ける子どもたちがいることは、大変にうれしく思えた。栽培活動で注意することの1つに自然の変化に気づかせる工夫がある。ややもすると実がなることに興味がいってしまい、栽培の「途中経過」から学習することを忘れる場合がある。梅雨の時期はワタにとってはまさに忍耐のときである。もともとが南米や、インドなどの気候に適している作物だけに、長梅雨には耐えられず、根ぐされしてしまう。だがこの梅雨が明けると、一気に背丈を伸ばして、子どもたちも驚きの声を上げるはずである。
 さて栽培活動を教材とするには、子どもたちの学習作業に見合うだけの「実り」を計画しなくてはいけない。ワタの成長する割合を梅雨を考慮して約7割と見積もった。農園の畝には30cm置きに芽が出ている。7割が実ったとして、4〜5人の学習グループが1つずつ木を栽培、観察できると予想した。またワタを大量に栽培するには、暑く、雨の少ない気候が適していることを子どもたちにも話した。
 子どもたちからは「枯れるワタがかわいそう」との声が上がった。それはその通りであり、こうした栽培活動の意義を子どもたちに納得させるより、その「かわいそう」という感情を大切にして、生活科の目標に示された「自然の事物や現象、季節による変化に気づき、その不思議さ面白さに目を向ける」ようにしたいと考えた。ワタの育ちやすい国々の生活の様子をビデオを通して学習した。また、2年生の学年農園の横に5年生が稲作に取り組んでおり、稲作は日本で盛んであるが、海外すべての国々で作られているのではないことも併せて説明した。ワタの育ちやすい国々では稲作の米が主食ではなく、パンであったり、いもであったりすることも子どもたちにとっては驚きであった。環境に適した作物の栽培があることを理解させ、その上で栽培を工夫することで、育ちにくく思われる地域でも、こうしてワタを育てることができると理解させたかった。栽培活動ではワタに限らず、芽かきや間引きが必要な場合が多くその説明の仕方は様々である。ワタも自生のものとちがって育たないものがいくつかできるので、子どもたちにも心の準備として環境の違いが栽培活動に大きな影響を与えることを理解させたかった。


E

そして梅雨が明けた。根がしっかり張っているワタはどんどん大きくなっていった。1週間で20cm位伸びるものもあって、子どもたちも大変に驚いていた。水やりの作業とともに、ものさしでワタの高さを測らせてみた。1mのものさしに背丈の印をつけて、1週間毎の長さを比べさせた。生長の様子が具体的に分かるので、子どもたちも積極的に背丈調べに取り組んでいた。 振り返りカードには「どんどん伸びるからうれしい。」、「伸びているところは、土のえいようや、わたしたちがあげたお水がすがたを変えたんだと思います。」といった内容が多くあった。目に見えて大きく生長する様子から、水まきや土に肥料を与えたこと、そして始めに土を十分耕したことを振り返り、その作業の意味付けを子どもたち自身ができることは大変に意味があった。1mのものさしに印をつけたがその中で、生長の著しい様子が分かるものさし1本をそのままにして、3学期の算数の長さの学習でもう一度取り出して長さを測らせてみた。「長さ」の学習の導入にも活用でき子どもたちの興味も大きかった。


F

 こうして梅雨を乗り切ると次の難関は、台風である。夏休みを過ぎると、ワタの木と呼べる背丈になってくる。高いもので1m、横に大きく枝を張ったものは幅70〜80cmなっている。根もしっかり張っているのだか、台風の雨で地面がゆるくなって大風が吹くと、そんなワタの木も倒れてしまう。そこで株もとに土寄せをしたり、支柱を立てたりしてワタを支えるようにした。子どもたちも大きくなった木を倒したくない、と思う気持ちが強く一生懸命に支柱を立てていた。台風は2度やってきた。幸いにも直撃されて大きな被害が出たことはなかった。それでも子どもたちは台風の去った後には、朝登校すると一目散に農園へ駆けつけワタの木の無事を確かめていた。


3 収穫の喜び


 5月から様々な苦労と工夫を重ねながら栽培してきたワタの栽培も、10月から11月にかけて収穫の時期を迎えた。大きくなったワタの木に一杯、ワタの実がなっている。緑色の皮に包まれた実は「コットンボール」と呼ばれている。コットンボールの中にあのふわふわした綿毛が詰まっていて、綿花になっている、そう想像するだけでも子どもたちの心はわくわくしてくるようだ。振り返りカードにも「あの小さかった綿のタネがこんなに大きな木になってうれしい。」「コットンボールの中で、ワタが表に出るのをじっと待っている、早く出してあげたい。」といった内容が記されていた。
 そして収穫の作業に入った。コットンボールがはじけて真っ白なワタ毛が見えているものを摘んでいった。ゆっくりワタ毛を取り出し、子どもたちの手のひらに載せていく。コットンボール二つ分で、もう手のひらはワタ毛で一杯になった。「わあ、やわらかい。」歓声が上がり、子どもたちはワタ毛のふわふわした感触をうれしそうに確かめていた。
 また不思議なことにコットンボールが弾けてワタ毛の収穫ができるのは、よく晴れた日が続いたときである。子どもたちもそのことを知って晴天が2日以上続くと、農園のワタの木の周りで目を皿のようにして、コットンボールを観察していた。


4 ワタを使って


 いよいよ収穫したワタを使って作品作りに取り組むことになった。生活科の目標に「(略)自然を大切にしたり、自分たちの遊びや生活を工夫したりすることができる。」 とあるように、綿花を子どもたちの作品で使うことで、ワタを子どもたちの生活に取り込んでいきたいと考えた。


@ワタくり

 実綿(ミワタ)からタネを手で取り除く「ワタくり」は大変に手間がかかる作業であった。子どもたちにはワタを使ってこれから行う学習の段取りを説明。次の「糸つむぎ」では実綿から種や種殻が取り除かれていないとワタに「より」をかけにくいことを知った。また種を採って、来年の2年生にプレゼントしよう、と話した。栽培活動では収穫の喜びを知っているから手間のかかる作業にも汗を流せる。初めて収穫を体験する子どもたちには1つ1つの作業の意味をじっくり説明していくことに留意してきた。
 振り返りカードには「ワタくりがこんなに大変だと思わなかった。」「ワタの中に種が入っているとうれしかった。でも糸作りには、じゃまになってしまうのでがんばって採った。」とあった。 こうしてワタくりの後には一人一人がワタを、テイッシュペーパーのボックス1個分位手にすることができた。


A糸つむぎ

 いよいよ糸つむぎである。ワタを片手に持って、もう一方の手の親指と人差し指でワタの束の端をつかむ。そして ワタを少しずつ引き出して指で「より」をかけていった。どの子どもたちも真剣な眼差しで、一生懸命に「より」をかける作業に取り組んでいた。こうしてできた糸は、小さく切った厚紙に巻き取っていった。そして、子どもたち一人ひとりが、巻き取ったものをセロファンの袋に入れて保存し、「勤労感謝の日」に家族にプレゼントすることにした。
 このプレゼントは大変に好評であった。何より半年近くかけて育て、つむいだワタの作品である。家族の方も、子どもたちの作業を通しての苦労とワタへの愛情が溢れているように感じられたようである。また子どもたち自身が「勤労感謝」の意味を実感できた取り組みとなった。プレゼントをもらった家族の方にも振り返りカードに感想を書いていただいた。「うれしそうにプレゼントを手渡す仕草に、ワタがすごく大切なものだとよく分かりました。」、「『ワタを作るのって大変だったね。』というと、うれしそうに、一番大変だった土の耕しや雑草抜きのことを話してくれました。」と喜びの声が記されていた。


B作品作り

 また、よりをかけずに、ふわふわとしたままのワタとクレヨンを使って、絵画に取り組んでみた。下絵を描いてワタを乗せるところを決め、ワタを糊で画用紙に貼り付けていった。真っ白なワタとクレパスのコントラストがとても美しかった。またワタの部分が浮き出て立体感のある作品に仕上がった。さらに色ケント紙を使って、白色や明るい色、修正ペンのインクとワタで絵を描いてみた。画用紙とは違った感じが出て、子どもたちも作品作りに熱中していた。
 こうして取り組んできたワタの栽培と、ワタくりやワタの糸のプレゼント作り、またワタを使った絵画。これらの活動を通して子どもたちにとってワタが身近に感じられ、人とワタのつながりがよく理解できたように思う。振り返りカードのなかにも「大きなワタの木からきれいな実がとれた。たくさんの綿花でいろいろなことができた。ワタの木はかれたけどまたタネができた。おうちでもワタをうえたいと思う。」「ワタで作られているものをぼくたちが着ているけど、ワタがどうやって着る物に変わっていくのかよくわかった。」とあった。生活科の目標には「(略)自然とのかかわりに関心を持ち、自分自身や自分の生活について考えさせる(略)」とし、子どもたちが取り組みに対して心惹かれ、親しみや知的好奇心・探求心を覚え、驚き喜ぶことを大切にしたい、とある。春から秋までの栽培活動は、子どもたちがワタの成長の様子を五官を通して体感できたものであった。またその後のワタを使った学習はまさに「文化の継承」につながるものであったと思う。
 今回のワタの学習を通して、活動の順番や事前の準備の大切さ、振り返りの場面を子どもの理解と感動を見据えながらどう持つのか、栽培活動を学習活動とするためのいくつものことを教えられた。「ワタの学習」を通して学んだことを糧として、今後も「身近な自然」を子どもの「育ち」の中に取り込める栽培活動に取り組んでいきたい。
(参考図書)農文協「ワタの絵本」ひびきあきら編